お茶のように すうっと心にしみて 明るい気分になるエッセイ
第5回 ハハハと笑って、真面目に書いて
春から新しい生活が始まる方、多いのではないでしょうか。我が家は来月から息子が小学生です。きっとこのエッセイが公開される頃、私は卒園式で子どもの成長や思い出の数々を振り返りながら、だーだー涙を流していることでしょう。子育ては新しいフェーズに突入していきます。小学生の溢れんばかりのパワーを想像すると、今までよりさらに、体力が必要になってくるような予感。来月から筋トレを始めようか……。続くだろうか……。
今まで長く続いたことがあることといえば、学生時代の書道か、妊娠中から趣味で始めたお菓子作り。編集者の仕事もかれこれ15年強でしたが、振り返れば、どれも「絶対続けるぞ!」という固い決心を持っていたというよりも、夢中になっているうちに、気づけば月日が経っていたという感覚です。
書道で言えば、硯に墨を擦る静かな時間も、筆に墨汁が染み込んで艶のある毛並みになる感じも、ほどよい濃度で半紙に書けた時の感触も好きでしたが、その場の先生や友人との他愛もないおしゃべりがあったからこそ! その緩急ある時間が好きでした。
お菓子作りはというと、日々のわちゃわちゃとした、想定外のことが起こる子育てのカオスさの合間に捻り出す、ひたすら混ぜる・切る・捏ねる貴重な「無」の時間。あとはオーブンに入れて膨らむのを眺め、甘い香りを吸い込み、完成したケーキを幸せとともにほおばるのみ。
それは雑然とした日常に現れる、ひとときの夢のような儚さです。
編集者としての仕事は、たくさんの方とコミュニケーションを取る華やかなイメージを持たれることもありますが、コツコツと一人で地味にこなす仕事も欠かせません。一人で集中する時間も好きだし、大勢でひとつのものを作り上げる現場も好き、という振り幅の広い私の性格にフィットしていたのだろうなと思います。
そう考えると、私にとっての「続ける」コツは、緩急つけること。飽きないように、疲れないように、ぐっと集中する時を決めて、その後に「夕飯何にしようかな〜」くらい関係ないことを考えちゃってもよしとする。
くだらないことでハハハと笑って、「さて、やりますか!」と真面目な顔して戻ってくる。きっとそれくらいが丁度いい。
でも、です。あくまでも、これは私の場合です。完成まで集中力が途切れない方もいるでしょうし、そういう方は本当にすごい。みなさんの「続ける」コツを聞いてみたいななんて思います。
ちなみに、宇治香園さんは 160年も続いています。160年という長い月日のストーリーをじっくりと聞いてみたい。私の習い事や趣味と同列にはできないけれど、ひとつのことを長く続けるコツが見えてくるかもしれません。
ちょうど最近、子どもが寝た後にPCを開いて暗がりの中で観た映画は、あるパティシエの自伝を元にしたサクセスストーリーでした。夢を諦めずに毎晩キッチンでケーキ作りの練習に励むシーンがあり、これでもかと試作を重ねる姿は印象的でした。
というのも、難しい顔をして……というよりは、子どものようにどこか夢中で楽しそうだったから。相手が「これは勝てない!」と思わず感じてしまう、魅せられている人の表情でした。
もうひとつ、つい一昨日くらいにたまたま耳に入ってきた会話が「続けているからチャンスを掴む」という言葉。10代に読んだ漫画や、20代に読んだ自己啓発本にも書いてあったような気もしますが(ええ、迷っていたんです、若かりし頃)、この言葉と今再会しても、「確かに」と納得できるのは、ものごとの真理だからなのかもしれませんね。
さて、明日から、いえ、今日から、筋トレがんばります!
緩める時には、お茶を淹れましょうか。
菅井やすこ1981年生まれ。衣食住、子育てなどのさまざまなジャンルの雑誌・WEB・イベントに編集者として15年以上携わる。その後、子育て層の心のケアに注力すべく、2022年に独立。2023年には大学に編入学し、心理学の研鑽の道へ。以降、芸術療法のひとつである表現アートセラピーや、ヨーガの伝統的呼吸法も習得しながら、内面を見つめる心身のケアを追求している。趣味はお菓子作り。一児の母。



